自治体システム標準化が大変な理由について組合員に聞いてみました

2021年に「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」が施行され、自治体の基幹業務システムの標準化が進められています。

最近、自治体から届いた納税通知書の中に「自治体システム標準化に伴う帳票レイアウト等の変更について」という説明資料が入っていました。

それを見て、ふと自治体システムの標準化は今どうなっているのだろう、と興味を持ちました。

というのも、数年前から、標準仕様に合わせたシステムへの移行が難航しているというニュースを目にすることがあったからです。

自治体システムの標準化では、原則として2025年度末までに標準準拠システムへの移行を目指して取り組みが進められてきました。一方、期限内の移行が困難となるシステムがあることも明らかになり、国による移行支援も続けられています。

では、いったい何がそんなに大変なのでしょうか。

企業組合コンピュータユニオンには、自治体システムの開発・保守に長年携わってきた組合員がいます。そこで今回は、その組合員に、

・自治体システムがどのように作られてきたのか
・各自治体のシステム仕様を把握する難しさ
・標準準拠システムへの移行
・データ移行

などについて、これまで経験してきた現場の話を聞いてみました。

○自治体システムはどのように作られてきたのか

組合員によると、自治体が行う住民基本台帳、税、福祉などの業務には、法令に基づいて全国で共通して行われるものが多くあります。

しかし、それを支える情報システムは、長い年月の中で自治体ごとに導入・改修されてきました。

「同じような業務だから、システムの中身も同じなのでは?」と思ってしまいますが、実際はそう単純ではないそうです。

制度が変更されればシステムにも改修が必要になります。また、それぞれの自治体の業務の進め方などに合わせて改修が行われ、独自の機能が組み込まれているケースもあるとのことです。

こうした変更が長年にわたって積み重なった結果、同じ業務を扱うシステムであっても、自治体によって違いが生まれています。

組合員の話を聞いていると、全国共通の標準仕様を作ったからといって、それに合わせて一斉にシステムを入れ替えれば済む、という話ではないことが分かってきました。

○現在のシステム仕様を把握することも難しい

では、「現在使っているシステムと標準仕様の違いを調べればいいのでは?」と思うのですが、ここにも難しさがあるそうです。

自治体システムは長期間使われているものが多く、その間にさまざまな改修が行われています。

組合員が経験してきた現場の中には、担当する事業者や技術者が代わりながら長年システムが引き継がれ、設計資料だけでは現在のシステムの仕様を十分に把握できないケースもあったそうです。

もちろん自治体のシステム担当者と標準化対応を担当するシステムエンジニアが協力して調査を進めます。

しかし、

「現在のシステムが実際にどのような動きをしているのか」

「自治体独自の処理はどこに入っているのか」

「標準仕様にすると何が変わるのか」

といったことを一つひとつ確認しなくてはならず、簡単な作業ではないとのことでした。

長年使われてきたシステムだからこその難しさがあるようです。

○標準仕様に合わせると、仕事のやり方も変わる

自治体システムの標準化は、単に古いシステムを新しくするだけではありません。

国が定めた標準仕様に適合する「標準準拠システム」へ移行していくことになります。

ここで難しいのが、長年、それぞれの自治体に合わせてシステムを改修してきたという点です。

既存システムに合わせて仕事をしてきた現場からすると、標準仕様のシステムに切り替わることで、これまでと同じ操作や業務の進め方ができなくなる場合もあります。

組合員によると、現場からすれば、現在使っている仕組みをできるだけ残したいと考えるのも自然なことだそうです。

一方、標準化では機能だけでなく、データ要件や連携要件なども標準に合わせていく必要があります。

つまり、

「今まで便利に使ってきたものをそのまま残したい」

という現場側の考えと、

「できるだけ標準仕様に合わせる」

という標準化の考え方を、実際のシステムの中でどう調整していくかという問題が出てきます。

システムだけを変更すれば終わりではなく、それを使う人たちの仕事の進め方にも関係してくるわけです。

○そして大変なのがデータ移行

話を聞いていて特に大変そうだと感じたのが、データの移行です。

自治体の基幹システムには、長年にわたって住民サービスを提供してきた中で、大量のデータが蓄積されています。

当然、それらを新しいシステムでも正しく扱えるようにしなければなりません。

ところが、移行元と移行先ではデータの構造や項目、形式などが異なる場合があります。

そのため、古いシステムからデータを取り出して、そのまま新しいシステムにコピーすれば終了、というわけにはいかないそうです。

組合員が経験した現場では、既存システムが特定のデータベース製品に依存した処理を持っており、そのまま新しい環境へ移すことが難しいケースもあったとのことです。

また、システム同士を直接接続してデータを移せない環境では、いったんデータをファイルなどに出力し、必要な変換を行ったうえで、新しいシステムへ取り込む方法を採るケースもあったそうです。

そして何より難しいのは、自治体の基幹システムを長期間止めることができないということです。

・データを取り出す。
・必要に応じて変換する。
・新しいシステムへ取り込む。
・正しく移行できたか確認する。

こうした作業を、限られた時間の中で行わなければなりません。

話を聞いているだけでも緊張する作業です。

○標準化と言っても、スタート地点は同じではない

「全国の自治体のシステムを標準化する」と聞くと、同じ仕様のシステムへ順番に切り替えていくようなイメージを持ってしまいます。

しかし、今回組合員の話を聞いてみると、それぞれの自治体がそこに至るまでの歴史は同じではないことが分かりました。

どんなシステムを導入してきたのか。

その後、どんな改修をしてきたのか。

独自の機能がどれだけあるのか。

どのようなデータが蓄積されているのか。

現在のシステムをどこまで正確に把握できているのか。

そうした条件が異なるシステムを、一つの標準に合わせていくことになります。

「標準化」という言葉だけを聞いていたときには見えなかった難しさが、少し分かったような気がしました。

○終わりに

自治体システムの標準化が遅れる理由として、システムエンジニアなどの人材不足が語られることがあります。

もちろん、それも理由の一つなのでしょう。

しかし今回、実際に自治体システムの開発・保守に長年携わってきた組合員に話を聞いてみると、それだけでは説明できない大変さがあることが見えてきました。

長年にわたって自治体ごとに改修されてきたシステム。

そこに組み込まれてきた独自の機能。

引き継がれてきた大量のデータ。

そして、そのシステムを日々の住民サービスに使用しながら、新しいシステムへ移行しなければならないという難しさ。

そうした背景に思いをはせると、「これは確かに大変だろうな」と感じます。

自治体システムの標準化に携わっているシステムエンジニアをはじめ、自治体職員や関係者の皆さんには、どうか身体を大切にして取り組んでほしいと思います。